『天満月の夢』・1

『高校時代の思い出とともに 友人Mに捧げる――』

 大扉をめくったその裏側。
 そこにはそう記してあります。

 朔にとってとても大事な友人の1人、その名はM嬢(もちろん仮名/笑)。
 『天満月の夢』の原点は、高校2年の遠足に行くバスの中からはじまりました。

 2人で「お話を作ろう!」ということになり、
 一文ずつ交互に物語を織り上げていったのです。

『それは、冬の寒い朝のことでした。』

 はじめに朔はそう言いました。

 物語の生まれる、漠然とした予感。
 ドキドキする、素敵な瞬間。

 朔が物語のはじまりを紡いだ時、頭に浮かんだ映像は、
 小学校の頃読みふけっていた、コナン・ドイルの小説。
 霧の街・ロンドンでした。

 深い霧に覆われ、視界が薄ぼんやりとして…
 古い煉瓦の建物に、硬質な靴音が反響する…
 向こうの街燈の下には、何が待っているんだろう…

 そんな風なことが、瞬時に頭に浮かびました。

 朔の投げた言葉を、M嬢がどうやって返したのかは、覚えていません。
 何しろ古い話なので…。

 この、原型となったお話は、もう朔もはっきりとは覚えていません。
 確か、完結しなかったんじゃないかと思います。

 朧げに覚えているのは、銀の林檎です。
 いや、当時は硝子の林檎だったかもしれません。
 朔が林檎を登場させ、M嬢が言葉を次いだ時、
 朔は「そうそう! そうなんだよ!!」と叫び、
 ふたりが同じようなことを想像し、 
 同じ物語の流れに身を任せる楽しさに酔いしれました。
 バスの中にも関わらず(笑)