『天満月の夢』・6

 さて、言葉遊びについて。
 前述の魚眼石以外にも、主に後半に氾濫(笑)しているわけですが。

・ヒスイ
 彼の正体はカワセミ。
 カワセミは、漢字で書くと「川蝉」または「翡翠」となります。
 「翡翠」は、「ひすい」と読むこともできます。
 「ひすい」はつまり「ジェード」、宝石の名前でもあります。
 カワセミはテトの言うように、その色の美しさから「空飛ぶ宝石」とも呼ばれていることですし。
 そんなつながりで、ヒスイがムーンに渡した胡桃は、宝石の「ひすい」へと姿を変えるのです。
 そんな「ひすい」が最後にオリオンの三ツ星に変わるのは、単に朔が好きな星座だから(笑)。
 ちょうど冬の代表的な星座ですしね♪

 ところで、作中でしばしば手風琴の音がカワセミの啼き聲と取り違えられますが…
 両者の音(聲)が本当に似ているかどうかは知りません!
 単に、手風琴の音が朔には物悲しく聴こえるので、登場させただけです。
 手風琴については、ずっと昔から朔の中にあるイメージがあるのですが……
 それはまた、《テト》シリーズUにでも登場するかもしれません。

・トキ
 《時の館》の主であり、すべての時間を司る彼ですが。
 彼の名前が「時」に由来していることは、言わずもがなです。
 しかしトキは、「鴇」とも変換できます。
 「鴇」は「朱鷺」とも書き、その字の表すとおり、風切り羽と尾羽の基部が淡紅色の鳥です。
 「淡紅色」はすなわち「とき色」。
 そんな連想で、「淡紅色」のテーブルクロスは「朱鷺」に変じ、テトたちを港へと誘導するのです。
 朝、目覚めたテトの枕が、朝日を受けて「淡紅色」に輝くのはご愛嬌(笑)


 ところで、『天満月の夢』には、多くのルビが振られています。
 …応募当初は、さらに多くのルビ及び、常用漢字以外?の漢字が存在しました(苦笑)。
 担当編集の方との相談の結果、使用を断念した漢字もあります。

 代表的な例は「睛」でしょうか。
 この漢字、長野まゆみさんの小説で知り、漢字表記に凝るのが大好きな朔は、
 ムーンの目に関して「睛」を使用していました。
 「聲」に関しては朔が我を通して、カワセミの声は「聲」にしてもらいました。
 本当は「鳴く」も「啼く」にしたかったのですが、これは断念。

 どうしてこんな表記にしたかったのかというと、
 普段使う漢字と違った表記にすることで、異質感を生み出したかったのです。

 ムーンの目は、月のうさぎの目。
 普通の人間とは違う、というニュアンスを出すために、「睛」という漢字を使っていました。

 カワセミの声は、鳥の声なのか手風琴の音なのか判らない、
 不思議な音声というニュアンスで「聲」という漢字を使わせてもらいました。
「啼く」も、同様のニュアンスを出すために使用したかったのですが…。

 ルビ振りの漢字表記に関しては、完全に朔の趣味です(笑)
 カタカナ語を漢字にするのが、大好きなのです♪

 また「ぼく」ですが、テトやムーンは平仮名の「ぼく」、
 ヒスイやトキは漢字で「僕」になっています。
 これは、文字を使い分けることによって、発言者が誰かわかるようにするため…
 というのもありますが、
 平仮名はやわらかいイメージ、漢字はかっちりしたイメージだからです。
 テトやムーンの幼い感じと、ヒスイやトキはもう少し成長したイメージを…
 もって頂けたらいいんですけど……。

 ヒスイの胡桃がオリオンの三ツ星になる、そして「ぼく」の表記設定以外は、
 ルビ振り漢字も特殊漢字も、『天球儀劇場』の時代から見えるものです。