プロローグ
冒頭の手紙。
これは26歳の秀一が笹峰に宛てたものです。
海外を飛び回る笹峰から久しぶりの手紙をもらい、ふと過去を振り返る秀一。
そんな設定で物語ははじまります。
『追憶』を書き始めた時、朔は例によって先のことなど何も考えずに走り始めました。
秀一と笹峰の間に何があったのか、
具体的には知らないままにあおり文句(?)のように書いてます。
ただ、方向性は決まってました。
『追憶』で目指したのは、「文芸作品」です(笑)
途中で狂ってきましたが。
純文学で書き始めたつもりが、途中で幻想小説に変わり、
最後はよく判らないものになりました(笑)
朔はただ、孤独な魂の救済を描きたかったんですけど……難しいです。
でも『追憶』は、《テト》シリーズに続くお気に入り作品です。
書きながら何かが掴めそうで、それを手にしたくて、
ぐるぐる迷走しながら一所懸命に書きました。
これから、『追憶』各話の裏話を語っていきたいと思います。
文月の頃 1
「文芸作品」らしく(笑)、情景描写からはじまります。
御影ヶ丘のモデルは、京都・東山です。
でも都市自体のモデルは、朔の育った街です。
三方をなだらかな山に囲まれ、北に海が広がる……T市と同じ設定ですが、
モデルが同じだからしょうがありません(笑)
そんな都市の西にある御影ヶ丘。
水底に沈んだ古い町のようだった。
と描写される静謐な雰囲気をもつその丘は、麓とは切り離された時間の中を漂っています。
生まれも育ちも御影ヶ丘、しかも次期茶道家元と目されて育った秀一は、
イマドキの高校生、という感じではありません。
大人に囲まれて育った秀一は、同年代の少年よりも幾分大人びています。
周囲からは「しっかりしている」と評価され、自分でもそう自覚している……
でもだからこそ、秀一は自分の中に広がる空洞に気が付きません。
広い屋敷の中で家事をこなし、学校へ行けば勉強でも優秀な成績を修め……
何事もソツなくこなしてしまうために見落とされがちですが、
秀一だって高校一年生なのです。
ひとりは淋しいんだってこと、誰かが気付いてくれたら、
「甘えていいんだよ」って言ってくれたら、
秀一も、自分の中にある孤独に気付いたかもしれません。
でも秀一の周囲は彼の「完璧な」仮面に騙され続けます。
例外は、将人と笹峰だけでした。
将人は「家族」のキョリで秀一に寄り添います。
でも秀一にとっては、自分に死んだ父の面影を重ねているだけでは、
と思えて、素直になりきれません。
一方の笹峰は、安易に孤独を共有しようとはせず、
傷を舐め合うような関係を断固拒否しています。
秀一が笹峰に惹かれた理由は、そこにあります。
秀一と笹峰の関係は、友情と一言で言ってしまえるようなものではありません。
ひたすら、そこが描きたかった。
お互いの姿に自分を映すようにして成長していくふたりの姿を、
真摯に克明に書き綴っていきたかった。
とても満足できるという内容ではありませんが、現時点での朔の全力投球です。
と、話が物語全体に及んでしまいました。
えーと、1についてですね。
突然笹峰が庭に乗り込んできます。
実はこれ、小舟を追ってきたんです。
「なぁ、俺の前に、もうひとり誰かこの庭に入って来なかったか。
ちょうど委員長と同じくらいの背格好で、うちの制服を着た、」
とは、小舟のことです。
笹峰が御影ヶ丘を訪れた理由については、「神無月の頃20」で笹峰の口から明らかになってます。
ふたりがはじめて会話を交わすこのシーンは、
朔が高校生の頃、この物語をはじめて書いた当初は
10月の放課後の教室でした(ちなみに最初のシーンを書いたきり、完結しませんでした)。
そう、本当は次にくる「神無月の頃1」が冒頭のシーンだったのです。
でも改めて書き起こすに当って、はじまりを7月にしました。
なんでだっただろ……理由は思い出せませんが、ま、とりあえず雨つながりです。
「文月の頃 2」
将人の登場です。
まるでホストのような弁護士です。
余談ですが、いつも守屋家に入り浸ってる彼ですが、麓にマンション持ってます。
作中に一度だけ、自分の家に帰る場面があったはず。
将人は、秀一の母親のような存在ですね。
それもかなりの親バカ。
将人と秀一は、たしか丁度10歳年が離れています。
将人が弁護士になったのは、家族を失った秀一を支え生かすためです。
未成年者にも関わらず秀一が自宅で生活し、
尚且つ業躰さんの力を借りながら家元代行をしていられるのは、
すべて将人と彼の父のサポートのおかげです。
家元というのはただ茶道を教えていればいいというものではなく、
財団の管理運営や、全国に広がる御影ヶ丘流茶道支部の管理など、
そういったバックアップ的処理はすべて弁護士である彼らがやっています。
……なんてことは全く作中に出てきませんが(笑)
まるでニートのように昼間っからブラブラしているように見える将人ですが、
仕事はきっちりやってます。
まぁ彼の場合、秀一の傍にいる、ということも立派な仕事みたいなところもありますが。
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