「神無月の頃 1」
秀一と笹峰がはじめて会話を交わしてから3ヶ月程経ちました。
間に夏休みをはさみ、ふたりがどうやって親交を深めたかについては書いていません。
いっぱいエピソードはあったんですけど、本筋には関係ないと思い、割愛です。
1つだけ紹介すると、秀一は自転車に乗れない、という話がありました。
秀一の育った御影ヶ丘は隘路や階段、急な坂道が多いので、自転車に乗る環境ではなかったんです。
自転車それ自体を持ってません。
出掛けるときは、もっぱらタクシー使ってました。
一方の笹峰はアメリカ育ちなので、自分のいいマウンテンバイク持ってます。
ロードサイクリングとかやってった、っていうのもいいな。と思ってました。
あくまで裏設定(笑)ですが。
で、笹峰が自転車でどこかへ出かけようと誘うんですけど、そこで秀一が
「僕、自転車って乗ったことがないんだけど……」
と言い、笹峰が呆れる&おもしろがる、みたいな話でした。
話がまた脱線です。
まぁとにかく7月に比べて、ふたりのキョリは確実に近付いています。
でもそれは、互いを縛るような友情ではありません。
別に分かり合う必要もない、いつも一緒にいる必要もない、
でも、互いになんとなく必要。アイツの前では、虚勢を張る必要もない。
そんなキョリです。
ふたりが教室を出た後、不意に笹峰が秀一の腕を引っ張ります。
それは教室の窓のあたりに不審な影を認めたからなのですが……
この影も、小舟です。
小舟は学校、秀一の家、お宮さん…銀木犀のあるところに現れます。
なぜ秀一ではなく、笹峰が先に小舟の気配に気付くのか。
それは、笹峰の方がより「死」に近い位置にいるからです。
笹峰にとって小舟は死神のようなもの、そんなつもりで書いてました。
「神無月の頃 2」
『追憶』は、全編を通して雨が降り続けます。
たまに止んでも、ぐずついた天気に変わりありません。
気持ちよく晴れるのは、最後だけですね。
ま、「文芸作品」ということで(こだわる)、情景描写に登場人物の心情を重ねるという
小細工をしてみたわけです。
将人と、秀一の父親である守屋聡佑。
ふたりの関係は……
将人にとって聡佑は、父親の仕事関係の人であり、小さい頃から傍にいて遊んでくれた「お兄ちゃん」であり、学校の先生であり、憧れ、尊敬、目標、敬愛の対象です。
ちょっとだけ性別を越えた特別な感情もあったかもしれません(笑)
思うに、秀一が生まれた時は、将人は少し嫉妬したんじゃないかと思います。
自分だけの聡佑だったのに、なんだか取られてしまったようで。
でもそのうち、まるで秀一が自分の弟のように可愛く思えてきて、3人で遊ぶようになるんですね。
聡佑にとって将人は、弟のような、もう1人の息子のような、そして高校の教え子でした。
聡佑が突然亡くなるまで、将人は弁護士になるつもりがありませんでした。
むしろ、親父とおなじ職業になんか就くものかと、反発していたところもありました。
大学では医学を専攻していました。
……と、これらも裏設定ですが(笑)
でも、自分のところに救いを求めにやってきた秀一を見て、
将人は弁護士となって守屋家を、秀一を守っていく決心をします。
その後しばらく顔を見せなかったのは、弁護士になるまで会わないと心に決めたからです。
で、大学を卒業し、猛勉強の末に無事資格を取ってから、会いにきます。
秀一が中学1年生の時のことですね。
「神無月の頃 3」
秀一の祖母である守屋幽江(キミ江)が、なぜ守屋の家を憎んでいたのか。
作中にその明確な理由は書かれていません。
なぜなら、それを書くと話が脱線に脱線を重ねた挙句、3倍の長さになったであろうからです。
簡単に説明すると……
幽江は花街「夏越」の芸妓上がりです。
現役時代は、秀一の祖父に当る6代目家元の下で茶道を習っていました。
茶道を通じてふたりは出会いそして結婚するのですが……
家元の心は、幽江になかったのです。
家の存続のための結婚だったのです。
ふたりの結婚は、完全な幽江の片想いでした。
はじめは愛していたはずなのに、次第に幽江の中で愛は憎悪に変わっていきます。
そして、弟子とは言え、家元に近付く若く美しい女が許せなくなります。
だから、戦後になって自分が暫定的に家元の地位につくと、
それまで通っていた芸妓半玉の弟子たちを切り、夏越と手を切ります。
幽江が、息子の聡佑に小舟が近付くのを嫌った理由もそこにあります。
自分も夏越の出身なのに、いつしか幽江の中では、夏越は自分を脅かす存在となっていたのです。
また、小舟の存在をめぐって、幽江と聡佑の関係もギクシャクしはじめるわけですね。
その上、反対を押し切って聡佑が夏越の半玉(小鞠)と結婚したものだから……
幽江は顔も見たくないと、離れに移り住んだわけです。
「神無月の頃 4」
委員会が終わって秀一が教室に戻ると、そこには笹峰がいます。
まるで秀一を待っていたみたいに見えますが、そして笹峰自身も待っていた、と言いますが、
これは偶然です(笑)
また小舟が現れないかと、窓を見張っていただけです。
御影ヶ丘に戻ってきた秀一は、異変に気付きます。
動いていた結界。
そして、庭の銀木犀が花をつけます。
まさか泥棒かと秀一は疑いますが、結界が動いていたのは、小舟がやって来たからです。
銀木犀が咲いたことにより、小舟は以前とは格段に自由に動き回れるようになります。
いよいよ小舟は実体を持ちはじめます。
|