追憶・3

「神無月の頃 5」

 思わぬ人物から、秀一は父親の意外な一面を知らされます。
 そして混乱した秀一は、ぽつぽつと笹峰に事情を打ち明けはじめます。
 自分の置かれている立場を理解してほしい、というよりは
 声に出して誰かに聞いてもらうことで、頭の中を整理しようとした結果です。
 でも秀一にとってその聞いてもらう相手は、笹峰以外にはありませんでした。
 受け止める笹峰は、深刻ぶるでも同情するでもなく、サラリと軽口でかわします。
 そんなことは俺には関係ない、とばかりに。
 互いに凭れ合うのではない、そんな関係のふたりです。

 陽司が登場しました。
 のっけから悪意の直球勝負の彼。
 彼が秀一を憎む理由は、本編では深く書くことができなかったので、
 追加として外伝『I wish...』を書きました。
 秀一を憎む強さと、茶道を愛する気持ちは、陽司の中ではイーブンです。
 茶道をしたいと思うだけ、それを苦もなく手に入れる秀一が憎らしいという寸法ですね。

 でも秀一はそんなこと知りません。
 なぜ自分がそこまで嫌われるのか、分らないまま秀一はつらい気持ちを呑み込みます。


「神無月の頃 6」

 秀一と小舟の初接触です。
 小舟は秀一の戸惑いも意に介さず、鍵についてしゃべり続けます。
 小舟が探している鍵とは、彼が命を落とす原因となった小箱の鍵です。
 この鍵は、「神無月の頃 9」で将人が銀木犀の根元に埋まっているところを見つけます。
 埋めたのは、聡佑です。
 小舟の言う「約束」とは、ふたりで小鞠の許へ行き、
 聡佑が小鞠に小箱の中身を渡す日のことです。
 しかしこの約束は、小舟の死によって永遠に果たされることはありませんでした。
 実はこの鍵と小箱、小舟の死については、悲劇とも言うべきエピソード?があります。
 ここで説明すると長くなるので、聡佑と小舟の物語をいつか外伝として書きたいです。

 笹峰の登場と共に小舟は忽然と姿を消します。
 そして笹峰は、秀一が見たという少年に対して敵意に近い感情を抱いています。
 なぜなら、笹峰にとって小舟は「死」そのものだからです。
 いつ動かなくなってもおかしくないような心臓を抱える笹峰は、
 己に近付こうとする「死」に対しての本能のままに、小舟を警戒しています。
 自分の生死に関して非常にシニカルな笹峰ですが、
 根っこの部分では生にしがみつこうとしているのです。
 ま、そんな感じ。


「神無月の頃 7」

 秀一が家に戻ると、またしても結界が移動しています。
 つまり小舟が訪れたということ。
 そして秀一は、まるで導かれるように扉に手をかけます。
 逆らえないのは、秀一もまた「死」に魅力を感じているから?
 秀一も気付かないままに、彼の中の孤独が小舟の背後にある「死」に引き寄せられています。
 しかしそれを阻むようにして現れるのが将人。
 秀一が玄関を開けるより先に、将人が扉を開きます。
 デッキブラシ持って(笑)
 そして将人を見た秀一の中で、すーっと不安が収まっていくのです。

 ちなみに合鍵ですが。
 おそらく、守屋家の正式な弁護士であり、身元引受人でもある父親の持っていたものを
 くすねてきたんだと思います(笑)
 いいのか、それで。
 いいのです、愛のなせるワザです。
 もっと問題があるような……

 訪ねて来たという友達。
 それは小舟です。
 しかしすでに姿を消しています。
 そして訪問者を探す秀一は、聡佑が生前使っていた部屋に踏み込み、
 机の抽斗が少し開いていることに気付きます。
 この抽斗に入っているのが、かつて小舟がお宮さんの裏に埋め、
 そして命を落とす原因になった小箱です。
 もっとも、まだこの回ではそれは明らかになっていませんが。
 中に何が入っているのか確かめる前に将人が現れ、秀一は慌てて部屋を出ます。

 なぜなら、将人が聡佑を思い出している顔を見たくないから。
 喪失感に打ちのめされている将人を見たくないからです。

 秀一は、将人がそばにいてくれるのは、自分を聡佑の身代わりにしているからだ
 と半ば信じ込んでいます。
 将人が自分に与えてくれる想いは、「守屋秀一」という人間に注がれるものではなく、
 「守屋聡佑の息子」に注がれる愛情だと。
 だから、将人がどんなに献身的に尽くしても、秀一の孤独を埋めることはできません。
 将人にしてみたら、秀一のために弁護士になろうと決心したその時から、
 秀一だけに向かい合ってきたつもりなのに……切ないですね。
 頑張れ、将人(朔にとっては所詮他人事さ)。