追憶・8

「神無月の頃 19」

 嵐が去ると同時に、銀木犀の季節が終わりを告げようとします。

 嵐の去った朝、秀一はお宮さん―虚空堂―へと向かうわけですが……
 そこで小舟は再び現れ、「あの日」について語り始めます。
 「あの日」については、聡佑の『在りし日の記憶』と合わせて読んで頂くと良いかもです。

 銀木犀になりたい。
 生前にそう呟いた小舟は、銀木犀の季節、銀木犀の馨とともに蘇ります。
 だから、銀木犀が終わる今、最後にずっと気に掛かっていたことを「守屋」に尋ねます。

 小舟は秀一をどう見ていたのでしょう。
 最初は、まるっきり秀一と聡佑を同一視していました。
 しかし19の前半では、聡佑ならすでに知っているはずのことを語るなど、
 徐々に自分がすでにこの世の存在ではないことに気付きはじめたのかもしれません。
 秀一と聡佑が別人であると分かっていながらも、
 それでも小舟にはどうしても聞きたい言葉があった。
 だから、その言葉を聞けた時
 小舟の中では秀一も「守屋」も、同じものだったのかもしれません。
 

「神無月の頃 20」

 すべてが終わり、御影ヶ丘に久々の晴天が訪れます。
 そして笹峰が現れ、彼は突然の渡米を切り出します。
 なぜこんなにも突然なのか。
 それは笹峰が自分のことをまったくしゃべらない上、
 小説の進行が完全に秀一の視点で進んでいるからです。
 本当に、こういう場合はどうすればいいんでしょうね?
 もっとやりようがあったようにも思いますが、小説の雰囲気を損なわないためには
 こうするしかなかったような気も……。
 いえ、やっぱり朔の力不足でした。
 そのフォローアップのために書いたのが、今はもう公開していない記念作品でした。

 秀一と笹峰の別れ方は、朔の憧れ…のようなものです。
 朔には真似できないので。
 と言っても朔は、いざ別れてしまうと、どんなにブランクが空いてもフツーに平気なのですが。
 でも別れの時は、こんなふうに思うことはできないので、なんとなく憧れです。

 ここでも、見送ることのできる秀一は器のでかいヤツだなぁと思います。


エピローグ

 冒頭の話ですが、詳しく(?)は
 サイト誕生2ヶ月記念の「ビエンナーレ」、2000hits感謝記念作品の「夏期休暇」
 を参照して下さい。
 
 時間が、『追憶』の中での「現在」(秀一26歳)に戻ってきます。
 外国を飛び回る笹峰からのエアメール。
 たまの(それもかなり一方的で短い)やり取りしかしていなくても、
 秀一と笹峰にはそれで十分なようです。
 今もあいつは頑張ってるんだろうな、自分も頑張らねば。
 そんな感じです。
 傍にいなくても、互いに励みになる存在。
 憧れますねぇ。

 聡佑と小鞠の結婚の経緯ですが、珊瑚の帯留が贈られることはありませんでした。
 ふたりが出会ったのは、細かい設定は決めていませんが、
 聡佑が大学生になった後です。
 
 箱、帯留、手紙、鍵は秀一に引き継がれました。

 さて、これから秀一たちはどうなっていくのか。
 将人は無事結婚することができるのか?
 陽司は小野瀬さんと?


 『追憶』は、朔初の主人公の年齢が自分自身を超えた作品でして…
 まぁ秀一はまだ良しとしても、将人なんて36歳・独身・彼女ナシですからね。
 そんな人物が何を考え何を人生の目的として生きているのか
 今の朔には皆目見当もつかないので……
 続編を書くとしても、まだまだ先のことだと思います。

 この作品は、こうして自分で読み返してみても、普通に「読んで」しまいます。
 『天満月の夢』に並んで、朔の手を離れてしまった作品のような気が……。
 それだけ、作品がひとり歩きしていたんだと思います。
 書けて良かった。


 さて。これで本編の裏話は終了です。
 また機会があったら、外伝の裏話でも……